( Interview )
「誰もが働きやすい建設会社になるために、新たなことに挑み続ける」。
近藤建設 代表取締役社長 近藤 裕世さん
女性社員5→15人へ。社員にとっての「新しい舞台」を創る3代目社長の挑戦
「男性社会」のイメージが色濃い建設業界において、10年前に近藤建設(富山県富山市)の3代目社長に就任した近藤裕世さん。社員の働きやすさを最優先に考え、常に現状打破に挑んできた近藤さんに、これまでの歩みと建設業の理想の姿について話を聞きました。

近藤建設株式会社
代表取締役社長
近藤 裕世さん
祖父が創業した近藤建設株式会社(富山市)3代目 代表取締役社⻑に2015年に就任。富山県建設業協会等外部団体の役職も務める。5年前から「人が育つ会社に!」を社内スローガンに掲げ社員が働きやすい環境作りに奮闘する日々。
銀行からテレビ局、そして建設会社へ
近藤建設は、近藤さんの祖父が1949年に創立した76年続く総合建設会社です。
2人姉妹の次女として生まれた近藤さんは東京の短大卒業後、富山市の地銀に就職し、5年後に地元テレビ局に転職。秘書や広報、時には着ぐるみをまとってのイベント出演など、1人で何役もこなす充実の日々を過ごしていましたが、人生を大きく変える出来事が訪れます。
「当時は漠然と姉夫婦が父の後継者になるとばかり思っていたのですが、彼らにその気配がなさそうなので、ある日何気なく『近藤建設はどうなるの?』と父に尋ねたんです。すると翌日、役員会議で私の入社を発表してきた、といきなり告げられ…もう途方に暮れるしかありませんでした」。
当初は驚きや反発心でいっぱいでしたが、父と言葉を交わさない数週間を過ごすなかで、次第に気持ちが変化していったそう。
「思えば、私をここまで育ててもらったのも、父の会社と社員のみなさんの頑張りのおかげだと気づいたんです。建設未経験の私でも何かできることがあるかもしれない、入社しない選択をし、将来、後悔だけはしたくない ー父に命令されたわけでも説得されたわけでもなく、自分の意思で入社を決めていました」。

それが2005年、31歳の時でした。
当時は近藤さんを含め女性社員は5人だけでしたが、20年後の現在は53人いる社員の「約28%」が女性という職場環境に。ある年には、就職活動で近藤建設に興味を持ってくれた学生の9割を女性が占めたこともあるほど、女性に支持される建設会社へと変貌を遂げています。
31歳で建設業界へ、41歳で社長就任─3つの転機が教えてくれたこと
人生における最も大きな転機は、近藤建設に入社したこと。次の転機は入社3年目に富山青年会議所(JC)に入会したことでした。
「同世代の優秀な地元経営者との出会いと刺激を数えきれないほどもらい、今もJCを通じて知り合った縦や横のつながりに支えられています」。
そして、もう1つの大きな転機が、歴史ある経済団体「富山商工会議所女性会」の会長を史上最年少で任されたこと。41歳で近藤建設の社長に就任し、その1年後のできごとでした。
「経営者としても経済団体会長としてもまだまだ未熟だった私が、富山県知事や富山市長、金融機関の頭取、トップ企業の経営者といったお歴々と会議や視察をご一緒させていただけた5年間は毎日が新鮮で貴重な体験でした。おかげで“近藤建設の近藤”を多くの方に知っていただき、会社にとっても私の経営者人生にとってもかけがえのない財産になっています」。
こうした時間を経て「人は人で磨かれる」ことを実感したといいます。

現状維持は衰退の始まり。だから挑戦し続ける
近藤さんの決断の軸となっているのは、「後悔しない選択をする」という強い思いです。周囲に意見は求めるものの、仕事に関することは基本的に自分1人で決断するといいます。
座右の銘は「現状維持は衰退の始まり」。
「人って、今まで通りが一番心地よくて一番楽だと思うんです。でも、そこに留まっていては、少しずつ後ろ向きに進んでいるのと同じこと。魅力的な人材や情報に出会うためにも、時代の流れに取り残されないためにも現状維持だけは絶対にせずに、常に挑戦し続ける、と心に決めています」。
もう1つの座右の銘が「勇気と覚悟と克己心」です。
社長になりたての40代前半は、女性である自分との戦いでもあったといいます。
「『女が何しに来た?』『女に何ができる?』といった厳しい言葉を投げつけられた経験は1度や2度ではありません。たとえどんなことを言われても『絶対に逃げ出さない。自分で限界を決めない。』と自らを鼓舞し、勇気と覚悟と克己心とともに走り続けてきた10年間でした」。
傷つく経験があっても「人付き合いは大前提」だと話す近藤さん。
「男性社会に存在を認めてもらい、人間として信頼してもらって初めて、仕事を任せてもらえる。そのためにいろんな方と知り合い、良いお付き合いをするのが建設会社社長である私の大事な仕事だと思っています」。
社員への「片思い」が生んだ社内制度とブランドコミュニケーション
社長になってからの10年間は、性別・年齢・職歴に関係なく「誰もが働きやすい会社」「社員満足度が高い会社」を目指して、できることからコツコツと変えてきました。
週休2日制の導入や、社員の誕生日に肉・魚・果物・ケーキ・酒・米から好きなものを選んでもらいプレゼントを贈るのも、近藤さんのアイデアから始まったもの。プレゼントも決して人任せにはせず、自ら調達します。
社員のためにここまでするのは、「私1人では何もできない、社員がいてくれてこその会社」との思いから。「社員が何を考え、何を求めているかを本気で知りたいし、気付けばいつも社員のことを考えている」という近藤さんは、自身を「社員にいつも片思いをしている状態」だと表現します。

社員満足度の向上を実現するうえで大事にしているのが「公平性」です。
「私自身、これまでの仕事人生のなかで、“女性”として見られることで働きやすくなった経験が1度もありません。女性社員の意向も度々聞いてきましたが、『女性という理由で過剰な配慮はされたくない』『男性と一緒がいい』という声が多い。私が入社する前から産休・育休はあたり前にあり、育休復帰率は100%と高水準ですが、基本的に男女は区別せず、女性だけにフォーカスするような社内制度は要らないのかな、と思っています」。
未来の仲間を増やすために、広報・採用を担う「ブランドコミュニケーション部(通称:ブラコミ)」を2年前に立ち上げました。
当初は責任者1人と他部署との兼務者でスタート。現在は責任者1人、専任3人、兼務2人の計6人体制で、ホームページの運用、SNSでの情報発信や新卒・キャリア採用活動、学生のインターンシップ対応、大学の経営管理講座の授業を受け持つなど、活躍の場を広げています。
「これまで交わることがなかった他部署の仲間や、社外の方々と交流することで刺激をもらって輝き、イキイキと働く姿を見ると、こちらも勇気が湧いてきます」と近藤さん。

「ブラコミ」をきっかけに、若手社員たちが「社長にもっとメディアに登場してほしい」「社長が活躍している姿を見るのが嬉しい」と思っていることを知り、苦手だったメディア出演にも積極的に挑戦するようになりました。
さらに、社員が会社・仕事に何を求めているかを知るために「社員の 社員による 社員のためのWell-Being提案」を募集。
約40個もの提案が寄せられ、特別休暇・長期休暇の拡充、フレックスタイム制の導入、資格取得補助の拡充、マイカー通勤者への任意保険料の一部補助など、多岐にわたる制度を早速導入して社員満足度を高めています。
自分でタイムマネジメントができる魅力的な業界に
近藤さんが描く理想の建設業界とは?
「他産業と同じようにちゃんと休みがあって、自分で主体的にタイムマネジメントができる業界になること」だといいます。
「ものづくりは本来、非常にカッコよくて価値があり、若い人にとっても魅力的な産業であるはずなのに、現状は大変そう、ハードルが高そう等のイメージが強いのかもしれません。近年、進化し続けているDXで、業務の効率化や省力化、生産性の向上をさらに図ることができれば、もっと人が集まる建設業界になっているかもしれません」。

可能性は無限に広がっている
最後に、建設業界で働く女性、これから働きたい女性へのメッセージを聞きました。
「まだまだ女性が少ない業界だからこそ、女性に求められる役割はたくさんあります。どんな環境でも、自身の心の在りよう、考え方次第で活躍の場と可能性は無限に広がっていきます。挑戦する前向きな気持ちを持って、ぜひ飛び込んできてください」。
近藤建設株式会社:
https://www.kondo-kensetsu.jp/
ANDPAD Women AND Construction 特別座談会開催レポート:
https://page.andpad.jp/and_women2025/report/
取材・文/金井 友子 写真/小関 晃典