( Interview )

「特別なこと」ではなく「正しく仕事ができる」環境づくり
不二電気工事株式会社 専務取締役 藤田 智香さん

建設業で女性が輝く組織改革と社員育成の秘訣

藤田 智香さんは、電気工事業で働く女性がまだまだ少ない時代から現場、設計、営業を経験し、経営者として手腕を振るい、Panasonicパナソニック・リニューアル大賞や大阪市女性活躍リーディングカンパニー市長表彰など、数々の表彰・受賞歴を持つ業界を代表する女性リーダーです。そんな藤田専務に、同イベントで時間の関係で話しきれなかった電気工事業における女性の活躍のヒントを伺いました。

藤田智香氏

不二電気工事株式会社
専務取締役
藤田 智香さん

兵庫県宝塚市出身。電力会社に就職後、家業の不二電気工事へ入社。現場・営業担当を経て現在に至る。業界歴は25年。日々意識をしていること「逃げない 決める 責任をとる」

大手企業から転職、アルバイトとして入社

「当社に入社する前は、公益事業に関連する大手企業に勤務していました。色々とあって退職を決心し、再就職を考えたかったのですが、当時は25歳以上の女性の中途採用がほとんどありませんでした。仕事が決まっていない状態だったので、父に頼んでアルバイトとして不二電気工事で働かせてもらうことになりました。当初は社員になろうというわけでもなく、「つなぎ」程度の気持ちでした。」

電気工事業に入職した当初は、「男の世界に女性は入ってきてほしくない」という雰囲気があり、お客さまからも辛辣な言葉を投げつけられることも多くあったそうです。

現場での実務を経て電気工事の面白さを知る

「アルバイトとして入社すると、重鎮の社員が「やることがないなら教えるから、まずは図面を書けるようになれ」と言ってくれ、一人だけでも図面が描けるようになり、設計も手掛けるようになりました。現場に赴く機会が増える中で現場調整を任されるようになり、気がついたころには作業服を着てヘルメットをかぶってケーブルを「セーノ、セーノ」と入線したり、現場作業も任せられたりするようになっていました。」

藤田専務は、不慣れな実務を続けているうちに、仕事のやりがいを見出していきます。

「自身の仕事が組織のなかでどのように役立っているのか想像できるのが新鮮でした。また、集金を通じて「働いたことに対する対価がこれなのだ」と深く理解でき、仕事に対する対価だけでなく感謝までいただける電気工事が素敵な仕事だと思えるようになったのです。このハラハラドキドキする感じがたまらなく面白く、本気で電気工事業で働いてみようと考えるようになったのもこのころです。」

設計の業務を任されるようになり、注文住宅の仕事が増えてくると電気設備関係の打ち合わせを任されるようになり、お客さまからご指名をいただくようにもなりました。そこで鍛えてお客さまからご指名をいただくようにもなり、その経験がよりお客さまに寄り添った提案をできる礎になったといいます。
しかし、会社は廃業か存続を迫られた時期でもありました。

「アルバイトから専務に昇格し、責任ある立場となったプレッシャーの中で「とりあえずやろう」と自分を奮い立たせながら、管理業務中心の会社へと方向転換を図ることを決定しました。苦渋の決断でしたが、職人さんたちに退職していただくことになりました。残ってくれた社員のために「元請け比率を高め、工期を調整できる体制にする」という目標を達成することがモチベーションの支えとなり、経営状況が不安定な中で人手の確保も本当に必死でした。」と当時を語ります。

現在、藤田専務は、施工管理業務からは卒業し、専務として経営業務をメインに、社内のあらゆる困りごとに幅広く対応する立場です。

「当社は施工管理会社であり、実際の施工に関しては信頼の置ける職人さんが担っています 。社員は施工管理を担当し、各部門には工事責任者、営業責任者がいます。私の役割は、経営者として彼らを支援し、全体の円滑な運営を統括することです。お客さまに対しては「私が最後まで責任を持ってこの仕事をやり切ります。私が全責任を持ちますので、どうぞ全面的に信用してください」という強い思いで仕事を届けられるよう、組織をまとめ、経営していくことをミッションとしています。」

バックオフィスメンバーから女性採用を開始

不二電気工事の社員は現在27名、男女比率は5:4です。そのうちの女性の多くがバックオフィスメンバーとして活躍しています。現在、このバックオフィスメンバーは「副代理人」と呼ばれるほど信頼され、商品管理や未発注資材の確認、現場との連携など、大切な役割を担っています。

藤田専務が入社した当初は、経理担当者以外に女性社員はいなかったものの、約15年前、書類作成業務の限界を感じ採用を開始しました。
当初は社内で「女性ばかり増やしてどうするのか」という反発もあったものの、藤田専務は女性陣に「あなたたちの仕事の価値をどうしても上げたい。全社からバックオフィスを実現してくれてありがとうと言わせたいから、頼むから協力してほしい」とお願いし、双方をなだめながら体制を整えていきました。

藤田専務は、現場が終わったときに手伝ってくださった方には必ずお礼を言うことを徹底しました。
「これにはお客さまから「ありがとう」と言われたいなら、社内でも協力してくれたことに対して「ありがとう」と言う風土を築いてほしいという思いもありました。」

現在では18時になったら誰もオフィスにいないことが増え、資格の必要な業務以外はバックオフィスにすべて任せられる体制の構築を目指してブラッシュアップを続けています。

1人の女性社員の声から制度を充実

不二電気工事の女性社員が長く働ける環境づくりの代表的な取り組みとして、子連れ出勤制度が挙げられます。
「この制度は、社員の「インフルエンザによる学級閉鎖や台風警報で休校になった際に自宅に一人で置けない」という相談から生まれました。学童に預けられる年齢まで子連れ出勤を認めるルールを設け、反発も当初はあったものの、次第に定着していきました。」

また、女性社員同士が体調について意見交換する「体調どうです?会」という自由参加型の研修会も催されています。
「もともとは施工管理職として現場に出ている方の生理が重くて現場の仮設トイレを使うのが辛いという相談があり、始まった会になります。場合によっては婦人科への通院や治療に関してアドバイスを送る機会もあります。話し合うテーマも生理の話だけでなく、不妊治療、婦人科に関する情報交換などの悩み事に留まらず、もやもやした声を吐き出してもらう会にもなっているかもしれません。」

生理については、男性でも理解をしようという世の中の流れがありますが、大変なことであることは理解しているものの「変に気を使っている」節もあるといいます。
「そのようなこともあって、工事部の女性社員からは「上司に気を使われている空気が申し訳ない」と相談を受けました。」
女性として男性に無意味に気を使わせることは好ましくないと思い、彼女に了承を得たうえで体調について状態を共有できる環境を整備したとのことです。

「正しく仕事」できてからこそ、女性らしさが輝く

女性活躍が求められるなかで、多くの会社が女性社員を採用したいと考えるようになっています。しかし、藤田専務は、女性ありきで採用してルールを決めると、かえって伸びしろを自ら消すことになるのでは、と懸念しています。
「まず、男性たちは「女性だから体力が少ない、無理をさせられない」「女性だから…」と仕事を依頼することを遠慮しがちです。そうすると、女性に「責任を果たさない権利」が生まれてしまい、組織がどんどん歪みます」と指摘します。

「私が経営者として伝え続けているのは「正しく仕事しよう」ということです。「正しく仕事をする」とは、高い技術を身に付けてお客さまにベクトルを合わせてサービスを提供することです。男性、女性、生理といったことは、お客さまには関係ないことであり、「お客さまに最高の仕事を提供するために働くスタンスはしっかり守ってほしい」とお願いしています。正しく仕事をした上で、女性であることをどのように建設業界で生かすべきなのか考えるべきであり、女性が電気工事業界にいること、女性らしくあることは、とても大事だと思っています。」

会社・業界を一緒に変えていけるように

藤田専務が目指しているのは、会社の環境に満足できなくて社員が辞める会社ではなく、社員から「一緒に変えていきませんか」と提案があったときに受け入れられる会社です。

「人は年齢に関係なく変われるが、変わりたいと思わなければ変われない。社員が上を目指したいと思ったときにサポートしなければいけないし、変わりたいと言える状況を作ることも必要だと考えています。」

「ここ20年で建設業は変わりつつあり、電気工事業界も変わろうとしている会社が増えれば、きっとこの業界は、誰でも活躍できる業界へ変われるはずだと信じています。若手の方々にはまず電気工事のスキルを磨き、経営者の方々には、社員の人たちとより良い組織づくりを目指して建設業界を変えていってほしいと願っています。」

あわせて読みたい記事はこちら